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【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第1章〕8
〔第1章〕 高大は『繁盛店が必ずやっているPOP 最強のルール』と出会った
第2節―1)
前回の商店街視察から一週間が過ぎていた。欧州各国を訪問し、「食に関するレセプション」等に出席してきたのだ。
そして今日は地方に来ていた。農業、商業、観光等の現場を視察するため訪問していた。
今日ははじめから商店街の視察がスケジュールに組み込まれていたため、数店訪ねる時間があった。
一店目は、老舗のお菓子屋で創業138年、応対してくれた店主さんは四代目であった。
「お疲れでしょう…」お店に入ってすぐにお茶を出してくれた。
「有難うございます!」一口口に含んで2つ3つ会話をしてから視察の主旨を伝え、いつものように3つの質問を投げかけた。
「一つ目ですが、お店で代々受け継がれていることは何ですか?」
「当たり前ですが、暖簾(のれん)ですね。20年ごとに新しい暖簾に代えていますが、生地の色、書体、この書体は初代が書いたものです」
「達筆でいらっしゃったのですね。ほんと素晴らしい字です」
「いわゆるロゴですね。この字を当店の包装紙にも紙袋にも使っています」
「二つ目ですが、お店で習慣にしていることは何ですか?」
「毎朝、お茶を煎じます。このお茶は当店のお饅頭にとてもあうのです」店主さんは笑顔で言った。
「お菓子の仕込みはもちろんですが、このお茶も美味しくなるようにお湯の温度や茶葉の量など計算しています」
このお店は試食を豊富に取り揃えていた。店主さんから奨められ一番人氣のお饅頭をお茶とともに頂いた。
「おー、これはしっとりとしていて味に深みがありますねぇー。うん、美味しいです!」
高大が感想を言うと店主さんは満足そうであった。
「この味ももちろん変えていません」
一個ペロリと頂いた後に質問を続けた。
「最後の三つ目です。ご商売を通じて未来に残したいことは何ですか?」
「職人さんです!」
「なるほど!」
「この日本から職人がドンドン減っています。もし全くいなくなったら日本の価値や強みってどうなるんでしょうね。技術の伝承もそうです。これはとても恐ろしいことです」
高大は総理という立場で全国の職人さんや町工場の技術者と出会う機会がとても多いのだ。店主さんが話すことに共感せざるを得なかった。
「うちは機械化しません。しないというより機械では作れないからです。機械化できないところが当店が代々商売をさせて頂ける要因だと言えます。職人になりたいという子供たちはとても多いです。うちはお菓子作りだけではなく次世代の職人を育てる取組みをしています」
しばらく店主さんとの会話が続き、まだまだ聞きたいところであったが、次のお店を訪ねた。
次のお店はドラッグストアというより昔ながらの薬屋さんであった。
自動ドアを開けると「いらっしゃいませ!」と明るい元氣な声が響いた。レジにいた若い女性スタッフが応対してくれた。
思った以上に店内は広くスタッフもこの女性を含め5人もいた。他の4人はガラスで仕切られた別室で何やら作業をしていた。
この女性スタッフは手にマーカーを持ち、何か描いていたようだ。良く見ると四コママンガであった。
「漫画家さん志望ですか?」マンガ好きなスタッフさんなのかと勝手に思い、ガンダム世代の高大は話しかけた。
「いいえ…」彼女は困ったような笑みを浮かべてこう言った。
「これはPOPです」彼女が続けて言った。
【予告】「繁盛店が必ずやっている POP最強のルール」との出会い