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【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第4章〕9
〔第4章〕 「高大は自らPOP広告クリエイターになろうとした」
第3節―4)
【あらすじ】 引き続き、高大にとっては学科試験よりも、実技試験が難関であった。
最終の問題6は選択形式で次のような設問であった。
◎〔A〕あなたの住んでいる市(または町)のシニア活動支援センターでは、「シニアライフキャンペーン」を、9月10日(火)~16日(月・敬老の日)の期間に実施します。センターでは、体力トレーニング、パソコン活用法、新事業相談などのミニ講習コーナーなどがあり、55歳以上の市(町)民なら誰でも参加できます。
そこであなたのお店が属する商店街(またはショッピングセンター)でも、このキャンペーンに協賛し、「元気なシニアの応援フェア」を同時期に開催します。各店舗・テナントでは、自店の推奨品(例えば、シニア向きのスマートフォン、使いやすい文具、疲労回復の健康食品、安全安心の食品、若さを保つ化粧品やアクセサリー、など)をアピールします。
このフェアを告知し、自店の推奨品をPRするポスター風POP広告を作成しなさい。
以下の項目は必ず作品に盛り込んでください。
(1) キャンペーン名称とキャンペーン主催者名(市または町の名称は自由に設定)
(2) フェアの名称と実施期間
(3) お店の名前
(4) 自店の推奨する商品またはサービス(業種、商品は自由に設定)
(5) 推奨品または、推奨サービスのキャッチコピー
※イラスト、装飾デザイン、その他のアレンジは自由です。
◎〔B〕あなたが働く文具・雑貨専門店「POPステーション」では、この秋より一押し商品『※実際の商品名』の売り出しにあたり、店頭に飾るポスター風POP広告を作成することになりました。
写真・図や詳細情報をもとに、購買ターゲットや売場状況などのシチュエーションを想定し、商品オリジナルキャッチコピー・イラスト・装飾デザイン等を考え、ポスター風POP広告を作成しなさい。
※商品・価格は必ず盛り込むこと
【詳細情報】
●「POPステーション」は複数路線が乗り入れている駅ビルの中にあり、10代~30代に人気のあるお店
●『※実際の商品名』はタブレット端末の表面を粘着テープを使用して清掃する商品
●『※実際の商品名』のロールは12周分あり1周40回程度使用可能
(その他、【商品写真】並びに【売場取り付け図】が明記されています)
(右記問題は開催ごとに内容は異なります)
(A)または(B)の選択問題。指定されたこと以外はすべて問題文をヒントに自分でコピーを考えなければならないため、最も実践的な問題なのだ。B4サイズ(364mm×257mm)の枠にポスター風のPOP広告を作成するのだ。レタリングやレイアウト、色使いなどの技術面だけではなく、ポスター風の要素を盛り込んだ企画面も充実したPOP広告のことだ。
問題5までの検定対策で〝レタリング〟〝レイアウト〟〝カラー〟などの技術面はある程度のレベルまで成長していた高大であった。問題4~6に共通して忘れてはならないポイントとして余白は重要であり、命であった。以前、余白を無視したことでPOP広告に訴求力が感じられなかったことを記憶していたからだ。この点に注意すれば問題はなかった。
しかし、ここにきて新たな課題が〝コピーライティング〟〝プランニング〟などの企画面であった。
そこで〝コピーライティング〟にまず取り組んだ。例の本の第2章が『買いたくなるキャッチコピーのつくり方』の章であったため、そこを熟読した。多くのポイントが記されてあり、特に次の項が参考になった。
◇POINT(1 まずお手本になるキャッチコピーを探してみよう
◇POINT(2 キャッチコピーの5つの法則①
◇POINT(3 キャッチコピーの5つの法則②
センスがなくてもいくつかのコツを覚えることで解決できることがわかった。
残るは〝プランニング〟の対策であった。斬新なアイデアを出すことに長けていた高大は、取り組み始めてすぐに自分の能力を発揮できることに氣がついた。POP検定の場合、斬新さはさほど求められていないため、まずは基本を押さえることを考えた。
このように描くだけではないPOP広告クリエイターの潜在的な可能性の大きさをあらためて感じていた。自分がPOP広告クリエイターになるだけではなく、いかにして5万を超えるパワーを結集するか思案していた。
【予告】 第5章へ!「高大は5万人のPOP広告クリエイターを生かそうとした」
※ここまではフィクションでしたが、ノンフィクションを交えながらの展開が始まります。筆者(沼澤拓也)は、あるプロジェクトを立ち上げ、9月23日より本格的にスタートしました。名称は「総理大臣にPOPを1枚、手描きしてもらうプロジェクト」です。手描きPOPのパワーを実感している企業100社の応援により、まずは1000社までその輪を広げていきます。輪の力をもらいながら『総理大臣にPOPを1枚』手描きしてもらえるよう行動していきます。この進捗状況はこの【小説】のノンフィクション編として、不定期になりますが随時、更新します。
※読者の方で、私も応援したいという場合は、当社HPの「お問合せ」(下記アドレス)からアクセスして頂きメッセージください。
http://poporigin.com/inquiry/
※読者の皆様にはこれからのリアルな展開をお楽しみください。感謝!
【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第4章〕8
〔第4章〕 「高大は自らPOP広告クリエイターになろうとした」
第3節―3)
【あらすじ】 引き続き、高大にとっては学科試験よりも、実技試験が難関であった。
問題4は次のような設問であった。
◎以下の題材から1つを選び、ショーカードのPOP広告を作成しなさい。(与えられた題材のコピーは全て使用すること。字体、色使い、配列、イラスト、装飾デザイン等の挿入は自由です。)
指定された商品とコピーを題材に、B5サイズ(257mm×182mm)の枠にショーカードのPOP広告を作成するのだ。ショーカードとは小カードではなく、Showカードつまり価格ではなく本来備えている価値を魅せる商品説明タイプのPOP広告のことだ。
この問題からいろいろな用具を使ってPOP広告制作の技能が問われるのだ。問題3まではレタリングの基本、問題4以降はレタリングを含めた制作に必要なレイアウトやカラーリングが審査の対象となるのだ。これまで文字のレタリングを集中して取り組んできた高大に、足りないものがレイアウトの知識であった。
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見やすいレイアウトのルールを覚える
1枚の紙に、いかにポイントを整理して配置できるかがレイアウトの基本的なポイントです。そのためには、各要素をかたまりとして割り付けるとおさまりがよくなりバランスのとれたPOPができます。(p90)
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このページには基本の4種類のPOP広告が掲載されていた。種類によってそれぞれレイアウトが異なることが理解できた。高大はこの難関も例の本に記されてあったことでどうにかなる手応えを得ていた。
問題5は次のような設問であった。
◎以下の題材から1つを選び、プライスカードのPOP広告を作成しなさい。(与えられた題材のコピーは全て使用のこと。字体、色使い、配列、イラスト、装飾デザイン等の挿入は自由です。)
問題4同様に指定された商品とコピーを題材に、A4サイズ(297mm×210mm)の枠にプライスカードのPOP広告を作成するのだ。前述したようにショーカードとは商品説明タイプだが、プライスカードは価格訴求タイプで価格表示のあるPOP広告のことだ。
コピーの全体量(文字数など)が増えるため、より分かりやすく見やすいレタリングとレイアウトが求められるのだ。特に価格表示に使用する書体は練習が必要であった。角ペンまたは極太ペン(極太マーカー)が欠かせないツールになるのだ。
以前、高大がPOPを描いたときには極太マーカーを使わなかったが、試験のときにはそういうわけにはいかなかった。
極太マーカーについては、次のように記されていた。
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芯の先端が角ペンより幅広いのが極太マーカーです。角ペン同様、縦線と横線で持ち方を変えます。
描き方の基本も、角ペンと同じで、角度を調整しながらつねに一定の太さを保つように描きます。練習しなければ使いこなせない筆記具ですが、POPでのアピール力の強さは抜群です。(p93)
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さらに、本に解説されているとおりに取り組んでみた。
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◎縦線を引くときの持ち方
親指と人差し指で側面を挟んで持つ。
◎横線を引くときの持ち方
縦線と同じ持ち方で手首を90度回す。(p93)
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本には具体的に写真が掲載されていたので高大は持ち方についてはすぐに理解できた。
さらにページを進めていくと詳細に数字の描き方が記されていた。
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数字は、丸ペンより角ペンや極太マーカーで描く方が目立ちます。角ペンやや極太マー
カーは使い方が難しいため敬遠されがちですが、フリーハンドで楽の描ける方法があります。
1から10(ゼロ)までの数字は1筆または2筆のストロークで描けるのが特徴です。ひねりを加える部分で最初は抵抗があるかもしれませんが、手首と肘の動かし方を覚えると意外と簡単に描けます。
この描き方を覚えると、スピーディに描くことができ、線の幅が広いので数字の注目度が高く、訴求力アップにつながります。(p97)
それぞれの数字の詳しい描き方はp216~217をチェック!!
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ひねりの部分が最初は慣れていないこともあり難しかったが、徹底的に繰り返すことで
克服できた。
練習をしながらこの数字にはパワーを感じていた。役員会での数字の問いかけとともに表現力の強化につながることを信じていた。
【予告】 実技試験の中でも最大の難関が最終問題であった。
【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第4章〕7
〔第4章〕 「高大は自らPOP広告クリエイターになろうとした」
第3節―2)
【あらすじ】 学科試験よりも、実技試験が難関であった。
高大にとって立ちはだかる壁は実技試験であった。制限時間160分(2時間40分)、7題の制作が必須であった。実技も60点以上を必要とし、学科・実技それぞれ60点以上で合格であった。
実技試験とは〝手書きによるPOP広告作成〟が要件であった。それにはまず、使用する道具、特にマーカーの使い方を知らなければならなかったが、以前、閣僚懇談会の前に閣僚らに披露するために練習した経験があったため、高大は少し自信があった。
しかし、それはすぐに打ちのめされた。
問題1の(1)は次のような設問であった。
◎黒のフエルトペン(マーカー)を使用し、枠の上の文字を枠内に角ゴシック風の書体で書きなさい。
そこには漢字が8字、数字が5字、出題されていた。漢字はそれぞれ1字につき縦6cm×横6cm、数字はそれぞれ1字につき縦5cm×横5cmの枠が設定され、そこからはみ出さないように主に角ペン(約5mm幅)で作成するのだ。
(注:角ゴシック風の書体にできれば丸ペン使用も可)
問題1の(2)は次のような設問であった。
◎黒のフエルトペン(マーカー)を使用し、枠の上の文字を枠内に角ゴシック風の書体で書きなさい。
今度はカタカナが10字、ひらがなが5字、アルファベットが5字であった。3種類とも縦5cm×横5cmの枠が設定され、同じように主に角ペンで作成するのだ。
高大は必死になって角ペンの練習を繰り返した。通信教育のワークブックには縦線、横線、斜線、曲線、円を書き方が明記されていた。それを参考にワークブックに書き込む枠がなくなるくらいひたすら書き続けた。自由に描くのとは違い、与えられた枠内におさめる難しさを感じていた。
問題2は次のような設問であった。
◎黒のフエルトペン(マーカー)を使用し、枠の上の文字を枠内に丸ゴシック風の書体で書きなさい。
丸ペンを使用する問題であった。10~16文字程度の文章が2章あり、1章は縦2cm×横2cm、もう1章は縦1.5cm×横1.5cmの枠が文字の数だけ設定されていた。
この問題は丸ペンの使い方と設定されている枠の大きさに応じたマーカーの選別を間違わなければ簡単に乗り越えられるレベルであった。これには時間を最小限に抑え、他の問題の練習に充てることにした。
問題3は次のような設問であった。
◎フエルトペン(マーカー)を使用し、下記①~④の語句から2点を選び、それぞれ異なる種類の装飾風文字で枠内に書きなさい。2点ともすべて黒一色のみ使用すること。
指定された色に注意しながら、丸ペン、角ペンを自由に使用できる問題であった。横長熟語を縦5cm×横25cmの枠に作成するのだ。
ここから本来のPOP広告らしい創作性あふれる問題であった。例の本に記されてある次のポイントを参考にした。
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タイトル文字を目立たせる3つのテクニック
POPのタイトル文字をより目立たせ、お客さまの注目度を高める3つの方法があります。影付き文字、ふちどり文字、袋文字の基本的な描き方を練習してみましょう(p104)
―――――――――――――――――
自分のセンスの無さに最初はあきれるほどであったが、コツさえ掴めばそれは自信へと変化していた。自らいろいろな装飾文字を発想するまでセンス?いやモチベーションが高まっていた。正直、問題1(1)・(2)・問題2は好きではなかった。なぜなら、型にはめられる感覚があったからだ。高大の性格からしてこれまでにない斬新さを貫くところがらしさであったため、この問題は高大に適していた。
もともと高大はPOPのクリエイティブさに魅了されたのだ。この国を発展させるのは政治家ではなく、クリエイターという思いがあったからだ。しかし、検定ということから評価基準も大切なことは十分理解していた。
【予告】 引き続き、高大にとっては学科試験よりも、実技試験が難関であった。
【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第4章〕6
〔第4章〕 「高大は自らPOP広告クリエイターになろうとした」
第3節―1)
【あらすじ】 来年の2月の『POP広告クリエイター技能審査試験』合格に向けて、高大は行動を起こした。
試験は毎年2月と8月に開催されていた。
来年の2月の『POP広告クリエイター技能審査試験』合格に向けて行動を起こした。公務に差し支えないよう試験主催の(一社)公開経営指導協会の通信教育を申込み、休日はこの勉強に費やした。
試験ガイドの概要には〝店舗およびサービス機関におけるPOP広告を販売促進ツール、コミュニケーションツールとして捉え、単なるレタリング技術のみではなく、幅広いPOP広告作成能力を審査するものとします〟と明記されていた。
学科試験は簡単そうであった。制限時間30分、正誤式で50問(1問2点)出題され60点以上の正解率で良いのだ。POP広告の種類や役割、作成の知識、使用する用具について問われるのだ。そして、POP広告を学ぶには販売促進全般の知識を必要とした。マスメディアであるテレビ・新聞・雑誌・ラジオや補完メディアであるチラシ・DMなど、そして近年はインターネットに関する出題も傾向として見られた。普段からマスメディアに取り上げられる立場にある高大にとって、POP検定対策で始めた勉強がメディアを理解できる機会となっていた(笑)
例えば、次のような普段使える問題もあった。
◎SNSはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略で、インターネット上でユー
ザー同士がコミュニケーションできる会員制サービスです。
◎DMは特定対象者への訴求効果があり、チラシは広範囲の集客に有効なツールと言え
ます。
◎チラシを作成する場合には、商品を多く総合的に並べるタイプよりも、テーマや商品
を絞り込んだ方が、訴える力は強まります。
◎PRとは広告のように見なされますが、本来は一般消費者また社員などに対して、企
業方針や企業内容を示し、理解と協力を求める活動をいいます。
◎プル戦略とは、広告やセールスプロモーションにより直接消費者に働きかけて需要を
発生させ、自社商品ブランドのマーケットシェアの向上を実現し、購入させようとす
る戦略のことです。
POPらしい問題としては、
◎POP広告のPOPとは、Point of purchase(advertising)の頭文字をとったもので、購買時点(広告)という意味です。
◎POP広告は、見やすさ、読みやすさが大切なため、できるだけ紙面一杯に描くことが重要で、余白(ホワイトスペース)などを取る必要はありません。
◎POP広告のショーカードはもう一人の販売員として、商品説明や商品の推奨などの役割を果たします。
◎マーカーの角ペンを上手に使うコツの一つには、先端のエッジ(端)を効果的に利用
します。
◎明朝体は、楷書体の運筆法を基盤に、自然の筆跡を様式化してうまれた、横線が太く縦線が細い特徴を持つ書体です。
法律に関する問題としては、
◎日本では『表現の自由』が保障されているので、POP広告のコピーも虚偽でなければあいまいな表現なども、自由に表現することができます。
◎メーカーの商品政策ばかりでなく、小売店にあってもPL法を考慮したPOP広告政策は大切です。
◎日本ではJAS法により、一般消費者向けに販売される全ての食品について品質表示が義務づけられており、特に生鮮食品については原産地の表示が必要です。
◎景品表示法とは、独占禁止法の特例法で、競争を公正なものにし、不当表示や過大な
景品類の提供による不当な顧客誘引を禁じている法律で、消費者の利益を保護するも
のです。
◎著作権とは著作者が著作物に対して持つ権利で、文章、曲、歌詞、絵画、写真などすべて著作権の対象です。POP広告作成の際にも、著作権を考慮することが大切です。
店舗関連の問題としては、
◎ゴールデンスペースとは、人間の視点の高さとの関係で最も見やすく、手の届く範囲で最もさわりやすい高さの空間をいいます。
◎ダウンライトとは、下方向から上に向けて照らすもので、ある部分をクローズアップさせる時に効果的です。
◎情報バリアフリーの視点から考えると、文字の大きさや色彩に配慮したPOP広告も必要となってきます。
◎色の3原色は、赤紫(マゼンダ)・緑みの青(シアン)・黒(ブラック)です。
◎コンドラの両端のゴンドラエンドには「重点商品」を陳列するより、「定番商品」を陳列したほうが売上げが伸びます。
こんな出題も過去にはあった。
◎「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」のドラッカーとは、経営学者の第一人者として高名なピーター・ドラッカーのことである。
(解答は巻末に掲載)
近年は、販売促進の範疇も拡大しユニバーサルサービスの視点も取り入れた出題となっていた。意外と幅広いことを知ることができ学習意欲が増大していた。
――― POP広告クリエイターは、単にPOPが描ける人たちではないのかぁ…。ほんといろんなことを学んでいるんだ。それが5万人以上もこの国に存在している。みんなに活躍してもらわない手はない!
勉強しながらあらためて感じていた。
【予告】 学科試験よりも、実技試験が難関であった。
【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第4章〕5
〔第4章〕 「高大は自らPOP広告クリエイターになろうとした」
第2節―3)
【あらすじ】 幹事長の伊藤との会談はつづく…
「ひとつお聞きします。そこまでしてなぜPOP広告にこだわるのですか?」
伊藤はあの目を見たときからすでに本氣を感じていた。しかし、なぜPOP広告なのか?POP広告に何ができるのか?POP広告じゃなければならないのか?このことをしっかり受け止めたかったのだ。
「笑顔を創造することができるからです。自分が尊敬する政治家に教わったのです。その人は〝政治にしかできないことで笑顔を増やしたい〟と話してくれたのです。そして最近、この国から笑顔が減っていることを憂いていたのです」
「………」伊藤はハッと黙り込んでしまった。
続けて例の本に記されていることを高大は示した。
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POPのその先に笑顔があるか!
●笑顔を想像
現代は人間の気持ちが沈みがちです。雇用環境や景気悪化、その他不安な事態など暗い出来事が多いからです。その中で商売を継続し、繁盛させることは大変かもしれません。これまでの延長線上で商売を捉えていると、市場は狭まる一方です。商品を販売することが商売だと考えている店では、その傾向がより顕著です。
今は販売のその先にあるシーンを考える時代であり、そこに手を抜かない店が成長します。最も優先するべきなのは、お客さまの笑顔のために働くことです。何より笑顔は連鎖します。商売を通じて笑顔を提供することができれば、苦難な現代の商売であっても1人の笑顔がまた1人の笑顔を連れて来店してくれます。笑顔にさせてくれる店には人が集まります。
ここからが重要です。POPを制作する心構えとして、商品を購入してくれるお客さまの笑顔を想像して描きましょう。商売の原点に返って、お客さまの笑顔をイメージしながらPOPづくりを楽しんでください。
●笑顔を創造
売上も大切ですが、お客さまのストレスを取りのぞき、笑顔を提供することに商売の価値を見出す。ここに焦点をあてたいものです。
笑顔を創造することを知っているPOP広告クリエイターが活躍するシーンが増えると、その先に「日本の景気回復」が現実味を帯びてきます。(p190)
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伊藤は本に記されていることに共感した。特に〝最も優先するべきなのは、お客さまの笑顔のために働くことです。〟というところであった。まさに彼女の信条であった。
伊藤は高大の最強の理解者になろうと決心した。高大の目指す政治、そしてPOP広告を駆使することで伊藤自身が目指す政治も成し遂げられることを確信できたのだ。
「総理!POP検定の健闘をお祈りしております」
このメッセージは伊藤が納得したことの現れであった。
高大と伊藤は両手でガッチリ握手をした。
そして会議室をあとにしようとしたとき、伊藤が氣になることを口にした。
「厚労大臣の兼行には氣をつけてください!彼女はとても頭がきれます。味方にしておきたいタイプで決して敵にはしたくない。政治家というよりは官僚のような存在です。お願いしたことはテキパキとこなします。まったくミスもない。ただ彼女は本音を語らない。何より彼女の嫌いなものは…」
「嫌いなものは?」
「……… 〝笑顔〟です」
POPでつながることができる兼行とも伊藤同様、志を共にできると感じていたためとても意外であった。しかし、確かにこれまで兼行の〝笑顔〟を見たことはなかった。
「笑顔が嫌い…」
高大がポツリと口に出すと、伊藤は静かにうなずいた。
【予告】 来年の2月の『POP広告クリエイター技能審査試験』合格に向けて、高大は行動を起こした。