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【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第1章〕6
〔第1章〕 高大は『繁盛店が必ずやっているPOP 最強のルール』と出会った
第1節―6)
連日、高大は商店街の視察を続けていた。
この日は、空き店舗が目立つ寂れた商店街であった。私鉄の駅を起点に形成されたそこは、日本にある商店街の代表例と言える環境であった。20年前に近隣に大型店が出店し、そのときから商店街に空き店舗が1店2店と増え始めた。現在の商店街組合員数は20年前と比較すると3割減となっていた。
「こんにちは!」高大は食料品店を訪問した。最初に応対してくれた男性が「こんにちは…」と、前日のお店同様、やはりなぜ総理が来るのだろうと不思議そうであった。
視察の主旨を伝え、その男性が店主の息子さんであることと、創業45年でお父さんの店主さんが二代目だとわかった。店主さんは遅い昼食の時間だったようで、息子さんはお店の奥にいる店主さんを呼びに行ってくれた。再び主旨を伝え、3つの質問に応えてくれた。
「一つ目ですが、お店で代々受け継がれていることは何ですか?」
「受け継いでいることですか? ………これといってないかな。当たり前だけどここの土地と建物ぐらいかなぁ、それと借金も。うちから学べることなんかないよ」店主は恐縮しながらこたえた。
「二つ目ですが、お店で習慣にしていることは何ですか?」
「習慣?そんなのないねぇー。毎晩、お酒を飲むくらいかな」
昨日のお店とは明らかに返ってくる反応が異なっていた。しかし、これがほとんどのお店の現実であったのだ。
「最後の三つ目です。ご商売を通じて未来に残したいことは何ですか?」
「残せるものなんてないねぇ… 」
すると店主さんが続けて次のように打ち明けた。
「私の代でこの商売を閉じようと考えています」
「えっ!」高大はとても驚いた。
数日前から開始した視察であるが、これまで数店で同じようなことを打ち明けられていたのであった。昨日の履物屋さんが特異な例であった。繁盛店どころではない。現状を維持していけるお店に出会う確率さえ低かった。
「近隣に大型店が出店してから売上げが激減です。よくここまでもったというのが正直なところです」
「三代目がいるじゃないですか!」
「息子にはもう伝えています。何か良い仕事があったらそっちに行けと」
高大は最初に応対してくれた誠実そうな三代目と話をしたくなり店主さんにお願いをした。高大は店の奥のほうへ入りバックヤードにいた三代目に話しかけた。
【予告】 店主の息子である三代目の思いとは…