投稿記事一覧 > 【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第1章〕17
【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第1章〕17
〔第1章〕 高大は『繁盛店が必ずやっているPOP 最強のルール』と出会った
第5節―2)
【あらすじ】 国にとってのお客さまって誰なのだろうか?高大にとって、いや彼だけではない、この日本にとって最重要課題である〝お客さま〟を、まだ定義できずにいた。この日本にとって最重要課題である〝お客さま〟をはたして定義できるのか?
「やはり今日も来ていたんだね」
背後から声がしたので高大は振り返った。すでに政界を引退していた以前党の幹事長や外務大臣などを歴任された土田耕三であった。3カ月前の月命日の日にもここで会っていた。
高大が唯一と言ってよい、とても信頼している人物であった。党首選の際、父に一票を投じた大親友でもあった。
「おはようございます」高大は頭を下げながら挨拶した。
「総理大臣になって1年になるが、政権運営のほうはどうかね?」
「以前とまったく変わりはありません。悪い意味で長年積み重ねた常識を変えることに強い抵抗があるようです」
「まだ若い高大くんは失うものなんかないから思うように取り組んでみたらどうだ。君のお父さんが変えようとしたように」
「そのつもりです」
「20年前、君のお父さんが総理大臣になっていたら日本の政治は変わっていただろうね。少なくとも政治家は国民のために働いていただろうね」
「1年前、私は党内の議員の皆さんの期待を受けて就任しました。その期待が何であるか知っています。派閥に属さない私の立場が党の分裂を避けるに必要だったからです」
「今の党内は以前の派閥政治に戻ってしまった。志を全うする政治家ではなく、職業としての政治屋が増えてしまった。勝ち馬に乗る、そんな政治屋がこの国を駄目にしたんだ」
土田はこう言ったあと、墓前に手を合わせた。そして、
「20年前の党首選で君のお父さんを裏切ったこの政治の世界をまだ恨んでいるのかね?」
「………」高大は何も言わずコクリとうなずいた。
「そうか…」
このとき土田の様子が氣になった。何か高大に話したそうな氣配がした。3カ月前もそうであった。
「私で役に立つことがあったら遠慮なく言ってくれ」
土田が高大の肩をたたき帰ろうとしたとき、
「それでは一つお聞きしてよいですか?」と、高大が言った。
「もちろん!」
高大は悩みに悩み続けていた次のことを聞いてみることにした。
「この国にとってのお客さまは誰なのでしょうか?」
このとき高大は土田の表情を見て、この答えを知っていることを確信した。
「その答えはお父さんが知っているよ」
「父が…」
高大は驚きを隠せなかった。
―――なぜ父が知っているのだろう?父も同じことに悩んでいたのだろうか?
「それは君の内に答えがあるということだ」
そう言って帰っていった。
―――自分の内にある?
高大は解決どころか悩みが一層深くなっていた。
(第2章へ)
【予告】 第2章 「高大は日本のPOPに取り組んだ。」の章へ!