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【小説】もし日本の総理大臣がPOP広告を描いたら〔第3章〕4
〔第3章〕へ突入! 「高大は日本のキャッチコピーに取り組んだ」
第3節―1)
【あらすじ】 野党から文部科学大臣に抜擢した眞鍋と懇親を持った高大は、フランスへと向かった。
翌日、高大と渡外務大臣、末広経産大臣一行はフランスへと向かった。
フランスは日本文化を好む国民が多く、武道や大相撲などの伝統文化、アニメや音楽、ゲームなどの現代文化をテーマにしたイベントが数多く開催されていた。
その中でも毎年7月開催『ジャパン・エキスポ』はヨーロッパ最大の日本文化とエンターテインメントを発信するイベントであり、今回の3日間の訪仏はこれにあわせて計画されていたのだ。
早速初日からイベントを訪れ、オープニングで挨拶するなど積極的に日本文化を高大はアピールした。
日本は、戦略産業分野である文化やコンテンツ産業の世界進出のため、国内外への発信に力を入れていた。伝統文化や現代文化などを海外に売り込む「クールジャパン戦略」として、ポップカルチャーを主体に文化産業の海外展開への支援はじめ知的財産を創造しそれを育成、保護する支援など、政府や官僚だけではなく、コンテンツ産業に秀でた人材を交え「クールジャパン官民有識者会議」を開催していた。
すでに政府はクールジャパン推進により海外収入を今後大幅に増加させる方針を示していた。
そのため一日中、イベント会場で日本のエグゼクティブとして高大は2人の大臣とともに奔走していた。
この夜はフランスの政府関係者らと食事を共にし、初日を終えようとしていた。
ホテルの部屋に帰る際に、高大は渡と末広に少し打合せをしたいと告げミーティング用に確保していた部屋で行うことにした。
部屋には3人と、入口にSPが1人立っているだけだった。内閣改造後、このような機会を高大は望んでいたが渡の調整がうまくできずにいた。希望は一対一での話し合いであったが、おそらく意図して高大を避けていたことが考えられるので、末広も交えたことで渡の警戒心が解けていた。
高大は何が何でもこの国の体制を変えようとしていた。しかし一番の敵が党内に存在していたのであった。
それは園場派(旧大理派)であった。実権を握っている園場との対立は必至であった。
それは次の構図が背景にあったからだ。
〔今の政治〕権力をもったものがすでに力のあるもののために政治を操る。政治のための国民
vs
〔高大の目指す政治〕志のあるものが国民(次の世代)のために政治を司る。国民のための政治 志のあるものが次世代の子供たちに誇れる政治
高大は力には力で対抗しようとはしていなかった。相手の懐に飛び込みまず相手を知ることからだと考えていた。
このようなタイミングで一年前、園場の後押しで高大は総理大臣に就任することになった。懐に飛び込む絶好のチャンスが巡ってきたのだ。
それゆえに園場を孤立させるには、財務大臣の金山と外務大臣の渡がキーパーソンであることを見抜いたのだ。
このように考えていたため、訪仏時がその機会だと考えていた。
どうしても亡き父を裏切った大理派(現園場派)に対して、高大の特別な感情が消し去ることができずにいた。
明日のフランスとの首脳会談では主に経済について話し合われるのだ。日本はフランスとの貿易赤字が膨らんでいた。毎年その状況に変化がなかった。
そこで解決策として日本文化やコンテンツ産業をPRすることで少しずつでも解消しようと動いているのだ。
貿易赤字の原因ははっきりしていた。それは国対国のブランド力で劣っているからだ。
「盛大なエキスポでしたね。フランスだけではなくEU諸国から来場者がいて日本文化に触れてくれるところをみるとうれしくなりますね」高大は今日の感想を述べた。
「私ははじめて参加しましたが、日本で話を聞くより盛り上がっていましたね」末広が言った。
「昨年も参加し驚いたけど、年々規模も来場者も増加していますね」渡は昨年に続き、2回目の参加であった。
「あらためて日本文化の素晴らしさを感じました。この国の未来を考えるとこの分野は間違いなく成長産業になります。〝クールジャパン〟のブランド戦略をますます加速させましょう」
この点に関しては3人の考えは一致していた。そしてブランド戦略に不可欠な新たな取り組みにPOPを活用していくことに高大は決めていた。
なぜなら例の本に〝POPとブランドの関係性〟が記されていたからだ。
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すでにブランドイメージが確立されている商品は、お客さまに商品価値が認知されている。あえてアピールしなくても、十分に購買意欲に働きかけているので、POPは必要ないというのが極論である。ブランド力がアップしていくと、POPの貢献値はダウンする。(このページのグラフ参照)つまり、POPが無くても買いたくなる商品=ブランド力のある商品となる。この関係性はPOPと店にも当てはまり、POPがなくても行きたくなる店にすることが理想といえる。(p133)
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日本のブランド価値を高めることにもPOPは欠かせないツールであった。
まずはわれわら政府が先陣を切ってどのようなメッセージを、POPをツールに発信していくかを高大は貿易赤字に対する最重要課題だと考えていた。
世界に日本の文化を発信しさらに需要を高めること、それを実現するためにPOPは最強の助っ人であるのだ。
高大はPOPと文化が深い関わりがあることも本に記されていたので分かっていた。
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〔コラム:平賀源内に学ぶ日本人のPOPセンス〕
源内は「土用の丑はうなぎの日」という有名なキャッチコピーをつくりました。うなぎの旬は冬です。しかし、我々現代人は旬ではなく、夏にうなぎを食べる文化があります。この文化は、平賀源内のたった1つのキャッチコピーからつくられたといっても過言ではありません。
時代は巡り、日本人のライフスタイルは多様化しています。欧米型の価格訴求タイプが主体のPOPとは異なる、日本のDNAである文化創造タイプが主体のPOPが今こそ求められています。あなたの店や取扱商品から文化を創造する。これが商売繁盛のキーワードであり、源内のキャッチコピーにはそのヒントがあります。(p84)
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――― POPの真髄は文化の創造!単に売り買いのための道具ではないのだ。日本の文化を世界に広めるためにはこの最強の助っ人がこの国の秘密アイテムになる!
日本人のPOPセンスを生かすべきだ。文化を創造するPOPは、クールジャパンに欠かせない!
高大はこのように確信していた。
そして、次のようにも感じていた。
――― 量販店のように安売りをするために使うのではなく、価値を分からせて10円でも高く買って頂けるような仕組みを創るには重要なツールがPOPである。これはデフレ解消にもきっとつながる。
経済に詳しい人たちからの高説もわかるが、単純に価値が伝っていないからデフレになっているのではないか…?。
商店街を視察するなど、高大はもともと現場を大切にする主義であったが、POP広告に接するようになってから、よりその考えは強くなっていた。
【予告】 末広経済産業大臣、そして高大のことを避けている渡外務大臣との懇談が続いた。